しのみやチキンの昔のはなし No3
このコーナーは当店の誕生からこれまでの変遷を書き綴ったものです。興味と時間のある方は読んでみてください。
ページ選択 | 1.庭先のにわとり | 2.ブロイラー | 3.ローストチキン | 4.昔の鶏肉店 |
戻る | 5.総菜店 | 6,チキンだより |
3,ローストチキン
先の項であげたように日本での肉用鶏の飼育はごく歴史が浅く街頭テレビのプロレス中継が盛んであった頃が誕生期なのでしょうか。それまではほんとうにごく一部のホテルや外国関係の厨房などの特殊な需要で飼育されていたにすぎませんでした。
戦後進駐軍が日本のあちこちで活動するようになってアメリカンスタイルの食材がどっと増え目新しい食品が洪水のように一般社会にあふれるようになりましたが、クリスマスのローストチキンもその一つでした。
たしか、昭和20年代の終わり頃、私は中学生だったころと記憶してます。
当時、篠宮養鶏園の近くに「日本農業研究所」という財団法人があり農産物に関する研究を幅広く行っていました。当然果てしなく拡がる広大な農場を持ち、スタッフも専門ごとにたくさんのメンバーがおりました。一般農作物はいうまでもなく畜産関係の家畜たちもすべてが揃って飼育されていました。で、そこの養鶏担当のスタッフと父との交流からローストチキンの試作試食案が出て実現したようでした。
当時一般家庭にはオーブンレンジなどどこにもありませんでしたから「農研」内に購入されたのか先進的なスタッフが個人購入したものかは定かではありませんが、出来上がった初めてのローストチキンは血がしたたり落ちる焼け具合で、気味の悪い思わず知らずにたじろぐような驚愕的な代物でした。が、大人たちがワイワイ騒ぐ中で私たちにも許しが出たのでおっかなびっくり食べてみてそのおいしさに仰天した記憶があります。
前にも書きましたが、卵を取る養鶏・採卵養鶏は日本でもかなり歴史が古く専門の孵化場も全国のあちこちに点在しておりました。農家で飼育するにわとりは農協や仲買人を通して孵化したばかりの初生雛を購入し自分で育てるか、ある程度まで育てられた中雛や大雛を手に入れるかする以外では自家の親鶏に育てさせるしかありませんでした。
ブロイラー養鶏の端緒はその代理育雛でした。初生雛を2ヶ月令から3ヶ月令に育てて農家に購入して貰うことを専業としたのです。
肉用鶏の飼育令もほぼ同じような育成期間であり、50日から75日令で出荷されます。はじめの頃は肉用の専用種など無く初生雛の雌雄鑑別ではねられた雄鶏が飼育対象になりました。これを”抜き雄”と称してそれまで商品価値の無かった雛が有価商品となったわけです。当然これら採卵用の初生雛の世界にもいろいろな品種やブランドがあり、各孵化場の業界間競争の基であったのですが、そのころはまた、育種学の世界でも進歩発展が著しかった頃で、一代雑種の利点効用がもてはやされた時期でした。
この一代雑種というのはF1とも呼ばれ両親の優性遺伝子を併せ持って産まれるがその優位性を次世代には継がせられない特性で家畜だけでなく農産植物や園芸界においても広く利用活用されています。
このF1初生雛を利用すると採卵用の雛の抜き雄でも純粋系の採卵初生雛よりも格段によい育成成績が上がりましたが、もともとアメリカ系の食品でしたから米国にはそういった情報や資料はふんだんにあり、導入意欲と能力があればすぐにでも利用が可能な環境にあったわけで、数年後には日本向きの肉用専用種が育成され、安定価格の大量供給がなされる食材に定着してきたのです。
(4,昔の鶏肉店に続く)